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あきかぜとはは

尾崎士郎短篇集

尾崎 士郎

線上閱讀尾崎 士郎《尾崎士郎短篇集(あきかぜとはは)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 頁

青空文庫

そのとき、階段を荒々しく踏みつけながら近づいてくる靴音が新しく私の意識を呼び醒ました。断続的に響いてくるその靴音は私の耳の底にこびりついた。しかし、やがて靴音は私の部屋の前にとまって、私は扉の白い把手が烈しく廻転するのを見た。細目にあいた扉口から、廊下の闇を背負って相場師がよろけるように入ってきたのである。

蒼ざめた彼の顔が、悲惨な電灯の光の中にうかびあがった。両手を私の洋服の上着のポケットの中へ突っ込んで彼は私の方へ近づいてきた。――

「駄目でした。私はもう駄目です」

彼はぐったりとカンプベッドの上に腰をおろした。しかし、絶望の中に顫えている彼の視線に触れると、私は不意に兇暴な衝動を感じた。

「それが、僕に何の関係があるんです」

この男の不幸のためにどうして私が悲惨にならなければならないのだ。――私は何よりも私の恐怖に対して反抗しなければならない。私は正面から彼を睨みつけた。彼の表情の中に当然浮び上ってくるであろう憎悪と憤りとを期待しながら。

しかし、相場師の顔には全く何の反応も現れなかった。彼は私に挑みかかるかわりにおずおずと立ち上った。そして口籠もるような顫え声で何事かを呟きながら、憐みを乞うもののように幾度びとなく頭を下げて、それから忍びやかに出ていった。