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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)

山の憶い出 上

木暮 理太郎

線上閱讀木暮 理太郎《山の憶い出 上(ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ))》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 284,014 字 · 565 頁

青空文庫

岩石の急坂を登って雄山祠前の突端へ出た。狭い頂上に敷き詰めてある丸い小石は、登拝者の持って来たものであろう。小さいが神さびた神殿の柱や扉に、見るもうとましい楽書が汚らしく書きなぐってある。黄揚羽が縺れ合ったまま、直ぐ前の十四、五米突も低い峰頭に、ばらばらになって三、四本残っている測量櫓の柱を掠めて、何処ともなく舞い連れて行く。視線の向う所は黒部川の上流を取り巻いて、天半に揺曳する青嵐の中に颯と頭を擡げた、今にも動き出すかと想われる大山岳である。

三ツ岳から南、国境の大尾根は幾重の雲が搦み合い重り合って、遠い空の極てに銅色を帯びた雲の峰が強い日光に照り映えている。然し黒部の谷には一点の雲もない。真先に赤牛岳が大肌脱ぎになった赭色の全容を曝露して、無遠慮に両脚を投げ出している。よく視ると荒っぽい手法で刻み上げた烏帽子直垂姿のいかめしい武夫が、大紋の袖を束ねて稽首しているさまがある。一段高く黒岳の尖った兜の鉢が雲の幔幕の前に銀鋲の光を輝かしている。祖父岳から右に展べた一線が、幾多の峰頭を鈍い金字形に統一した尨大な薬師岳との間に、鏑箭のように高鳴りして雲平の高原を拡げている。