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ひゃくものがたり

山椒大夫・高瀬舟

森 鴎外

線上閱讀森 鴎外《山椒大夫・高瀬舟(ひゃくものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 45,466 字 · 92 頁

青空文庫

護持院原の敵討

播磨国飾東郡姫路の城主酒井雅楽頭忠実の上邸は、江戸城の大手向左角にあった。そこの金部屋には、いつも侍が二人ずつ泊ることになっていた。然るに天保四年癸巳の歳十二月二十六日の卯の刻過の事である。当年五十五歳になる、大金奉行山本三右衛門と云う老人が、唯一人すわっている。ゆうべ一しょに泊る筈の小金奉行が病気引をしたので、寂しい夜寒を一人で凌いだのである。傍には骨の太い、がっしりした行燈がある。燈心に花が咲いて薄暗くなった、橙黄色の火が、黎明の窓の明りと、等分に部屋を領している。夜具はもう夜具葛籠にしまってある。

障子の外に人のけはいがした。「申し。お宅から急用のお手紙が参りました」

「お前は誰だい」

「お表の小使でございます」

三右衛門は内から障子をあけた。手紙を持って来たのは、名は知らぬが、見識った顔の小使で、二十になるかならぬの若者である。

受け取った封書を持って、行燈の前にすわった三右衛門は、先ず燈心の花を落して掻き立てた。そして懐から鼻紙袋を出して、その中の眼鏡を取って懸けた。さて上書を改めたが、伜宇平の手でもなければ、女房の手でもない。ちょいと首を傾けたが、宛名には相違がないので、とにかく封を切った。