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あるたんぼうきしゃのはなし
平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕
平林 初之輔
線上閱讀平林 初之輔《平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕(あるたんぼうきしゃのはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 113,247 字 · 229 頁
かような朝寝の習慣者にとっては、午前六時頃はまさに眠入りばなである。最も深く熟睡しているときである。林のごときは、下田の細君がどんどん戸を叩いてすら、容易に眼をさまさなかったのに、安田が、下田の細君の叫び声にいち早く眼をさましたということは、彼が眠っていなかったこと、そして誰かが死体を発見するのをびくびくして待っていたこと――少なくもそうらしいことを証明している。
彼はその前夜十一時に眠ったと証言している。そして下田夫婦はそれを確認している。しかるに下田夫婦は十時に眠ったと証言しているのである。十時に眠ったはずの下田夫婦が、安田が十一時に眠ったと証言したのである。この証言の無価値であることは一目瞭然である。下田夫婦は、十時以後安田が何をしたか、家の中にいたかどうかも全く知らぬはずである。
しかり、安田は十一時頃に階下へ降り、恐らく水を飲もうと思って台所へ行ったに相違ない。ところが水瓶の水は氷っていたので、彼は井戸端へ水を汲みに行ったのであろう。その時、いったん、林を避けるために、今夜は帰らぬと言い残して家を出た柴田が、恐らくどっかで、したたか酒をあおってひき返してきたのだ。