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ふくいんさつじんじけん
復員殺人事件
線上閱讀坂口 安吾《復員殺人事件(ふくいんさつじんじけん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 頁
八雲医師は困惑しきって、たちすくんだ。定夫の目に顔を近づけ、目の前でテノヒラを上下させるようなことをしたり、顔の筋肉を見つめたり、口の中をのぞいたり、匂いをかいだりしていたが、小首をひねるばかりで、一言も発しない。見当のつかない症状らしい。
すると、上から見下していた蛸重が、落付いて言った。
「フグの中毒らしいよ」
「アッ」
八雲医師は飛び上るほど驚いて、重吉を見つめ、目をまるくした。
それを重吉は平然と見かえして、
「今夜、私たちは、フグを食ったからね。しかし、定夫さんのほかは、みんなピンピンしているがね」
そこには、家族一同、揃っていた。
八雲医師は一瞬の驚愕がすぎると、猛然と警察医の自覚に立ちかえっていた。
彼の叫びは鋭かった。
「すぐ病院へ電話。フグ中毒を運んで行くから用意たのむと。寸刻を争う。すぐ自動車へ担ぎこんでくれ。ああカバンがあれば、自動車の中でカンフルを打ちつゞけるところだが」
三名が定夫をだきあげ、八雲医師がつきそって、自動車へ担ぎこんだ。救急車のサイレンを唸らせ、猛烈な速力で走り去る音が、いつまでも、きこえた。
「フグ中毒!」
大矢主任の呟きは、沈痛であった。