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あやしのやかた

怪しの館 短編

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《怪しの館 短編(あやしのやかた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 頁

青空文庫

「無念であったぞ! ……おのれ豊後!」

「お気を確かに! お気を確かに!」

「……一身の面目、家門の誉れ、腹切って取り止めたわ! ……いずれの世、いかなる代にも、認められぬは名匠の苦心じゃ!」

「ごもっともにござります。ごもっともにござります!」

「ここはどこじゃ? ここはどこじゃ?」

「お屋敷近くの往来中……薬召しましょう。お手当てなさりませ」

「無念!」

と融川はまた呻いた。

「駕籠やれ!」

と云いながらガックリとなる。

はっと気が付いた北斎は駕籠の戸を立てて飛び上がった。それから静かにこう云った。

「狩野法眼様ご病気でござる。駕籠ゆるゆるとおやりなされ」

変死とあっては後がむつかしい。病気の態にしたのである。

ちらほらと立つ人影を、先に立って追いながら、北斎は悠々と歩いて行く。

この時ばかりは彼の姿もみすぼらしいものには見えなかった。

その夜とうとう融川は死んだ。

この報知を耳にした時、豊後守の驚愕は他の見る眼も気の毒なほどで、怏々として楽しまず自然勤務も怠りがちとなった。

これに反して北斎は一時に精神が緊張まった。

「やはり師匠は偉かった。威武にも屈せず権力にも恐れず、堂々と所信を披瀝したあげく、身を殺して顧なかったのは大丈夫でなければ出来ない所業だ。