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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

線上閱讀江戸川 乱歩《悪魔の紋章(あくまのもんしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 頁

青空文庫

宗像博士は、それを受取って、蓋を取ろうとしたが、何を思ったのか、ふと手を止めて、その黒い漆器の表面を、異様に見つめるのであった。それから、

「ちょっと」

と云って、川手氏の茶碗に手をのばし、その蓋を取って、窓の光線にかざしながら、つくづくと眺めた上、今度はポケットから例の拡大鏡を取出して、二つの蓋の表面を仔細に点検しはじめるのであった。

「その蓋に何かあるのですか」

川手氏は早くも恐ろしい予感に脅えて、サッと顔色を変えながら、上ずった声で訊ねた。

「あの指紋です。ごらんなさい」

恐ろしいけれど、見ぬ訳には行かぬ。川手氏は顔をよせて、レンズを覗き込んだ。アア、お化けが笑っている。まぎれもない三重渦状紋が、二つの蓋の表面に一つずつ、はっきりと浮き上っているではないか。

「態々捺したのです。そして、我々を嘲笑っているのです」

二人はあきれた様に顔を見合せた。ア、何という素早い奴だ。妙子さんの葬儀がすむか済まぬに、もう第三の復讐の予告である。ぐずぐずしている訳には行かぬ。悪魔の触手は、既にして川手氏の身辺に迫っているのだ。

直ちにお茶を運んだ女中が、取調べられたのは云うまでもない。