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あるひのおおいしくらのすけ
或日の大石内蔵助
線上閱讀芥川 竜之介《或日の大石内蔵助(あるひのおおいしくらのすけ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 8,830 字 · 18 頁
」
伝右衛門は、こう云う前置きをして、それから、内蔵助が濫行を尽した一年前の逸聞を、長々としゃべり出した。高尾や愛宕の紅葉狩も、佯狂の彼には、どのくらいつらかった事であろう。島原や祇園の花見の宴も、苦肉の計に耽っている彼には、苦しかったのに相違ない。……
「承れば、その頃京都では、大石かるくて張抜石などと申す唄も、流行りました由を聞き及びました。それほどまでに、天下を欺き了せるのは、よくよくの事でなければ出来ますまい。先頃天野弥左衛門様が、沈勇だと御賞美になったのも、至極道理な事でございます。」
「いや、それほど何も、大した事ではございません。」内蔵助は、不承不承に答えた。
その人に傲らない態度が、伝右衛門にとっては、物足りないと同時に、一層の奥床しさを感じさせたと見えて、今まで内蔵助の方を向いていた彼は、永年京都勤番をつとめていた小野寺十内の方へ向きを換えると、益、熱心に推服の意を洩し始めた。その子供らしい熱心さが、一党の中でも通人の名の高い十内には、可笑しいと同時に、可愛かったのであろう。彼は、素直に伝右衛門の意をむかえて、当時内蔵助が仇家の細作を欺くために、法衣をまとって升屋の夕霧のもとへ通いつめた話を、事明細に話して聞かせた。