輕讀日語

輕鬆讀懂日語經典作品

ja-reading.com

輕鬆讀懂日語,輕鬆閱讀日語。線上閱讀日語經典作品。支援在閱讀過程中顯示假名、查詢生詞、翻譯句子。

ゆび

指

佐左木 俊郎

線上閱讀佐左木 俊郎《指(ゆび)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,262 字 · 5 頁

青空文庫

一

彼女は銀座裏で一匹のすっぽんを買った。彼女のそれを大型の鰐皮製のオペラ・バッグに落とし込んで、銀座のペーヴメントに出た。

宵の銀座は賑っていた。彼女は人の肩を押し分けるようにしながら、尾張町の停留所の方へ歩いた。店を開きかけた露店商人が客を集めようとあせっている。赤、青、薄紫の燈光が揺れる。足音が乱れる。

「もしもし! 奥さん。」

彼女は誰かに呼びかけられたような気がして立ち止まった。彼女の肩に、無数の肩が突き当たり、擦り合って行った。鼠色の夏外套、鮮緑の錦紗。薄茶のスプリング・コオト。清新な麦藁帽子。ドルセイの濃厚な香気。そして爽かな夜気が冷え冷えと、濁って沈澱した昼の空気を澄まして行った。

錯覚だったのだ。誰も呼んではいなかった。鼠色のハンチングを眼深に冠った蒼白く長い顔の男が、薄茶の夏外套に包んだ身体を、彼女の右肩に擦り寄せるようにして立っているだけだった。

彼女はその男から逃れるようにして、車道を越えて向こう側の舗石道に渡ろうとした。電車がピストン・ロットのように、右から左へ、左から右へと、矢継ぎ早に掠めて行った。青バスが唸って行く。