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ぶんがくのたいしゅうかろんについて
文学の大衆化論について
宮本 百合子
線上閱讀宮本 百合子《文学の大衆化論について(ぶんがくのたいしゅうかろんについて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 7,505 字 · 15 頁
所謂文壇人の領域で、人間性についての二元的な感じ方は、作家でない種類の人間的美質というようなものだけを抽象して来て感服する昨今の風となって現われて来ている。
最近、それについて興味ふかい二種の実際の場合があった。一つは、左翼的な或る作家の経験であるが、そのA氏は日本の企業界で歴史的に有名な或る会社の現実を、芸術に描こうと発意し、日本の実業家列伝中でも巨星であるその会社の創始者のやりかたなどを定型的資本家の観念で考えていた。創作の準備がすすむにつれ実地調査の欲が起って、その会社と交渉したところ、快く面談、説明案内をされ、到れりつくせりで、その作家A氏は、度々そっちの人と逢っているうちにいつか、資本家も人間であるという人々の説明にしんから同感するようになった。そして、私たちは搾取しようなどと夢にも思っていない、産業軍の一兵卒として自分から身を挺して働いているのであるというようなことを熱心に説得する対手の感情にまきこまれ、彼等の舌代的なところがある作品が出来上って、おやおやということがあったという例である。資本家というと、赤鬼を描く素朴な人間理解が、その作者の心持にこういう一見滑稽なわなを置かしめたのであった。