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ぶんがくのどんてん

文学の曇天

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《文学の曇天(ぶんがくのどんてん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,837 字 · 10 頁

青空文庫

近頃、文壇に懐古的気分が起ってきているのが眼につく。新聞雑誌の上に、明治時代の、或は大正初年頃の、さまざまの追憶や思い出が数多く掲載されているようである。

この懐古的気分は、どこから由来したのであろうか。

現在の吾国の文学は、その伝統が明治時代から初まったといっても、過言ではあるまい。少くとも、国民性に根ざす情意の色合を別にして、思惟の形体や表現の形式については、そう云えるであろう。吾々は半ば西洋流に物を考えるようになってしまった、というその半ばが、文学に於いてはまさしく半分だけの重要さを持つものであって、それを引去っては、文学は不具になる。

この伝統の発生時代から、相当の年月――振返って眺めるのに適宜な視距離を得るだけの年月――が経過した。そのために、明治時代の再認識が企図せられ、明治文化の研究が進められるのは、当然のことであろう。

然しながら、現在の懐古的気分は、そうした真面目な研究心の裏付を持つことが、甚だ少い。文芸を取扱う新聞雑誌に発表されてる多くの文章、追憶や思い出は、単なる昔話に終ってるのが大多数で、批判的要素の欠乏が甚だしい。全くそれは単に懐古的な気分から生れた過去のお話に過ぎない。