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いけぶくろのかい
文藝別冊[総特集]岡本綺堂
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《文藝別冊[総特集]岡本綺堂(いけぶくろのかい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 72,671 字 · 149 頁
ほかは無かった。湯屋で盗難に逢った場合には、その被害者に対して営業者が弁償の責を負うと云う事になったが、それも殆ど有名無実で、所詮は被害者の泣寝入りに終った。それでも湯屋へ美服を着てゆくのは止まなかったのである。
昔から名物の湯屋浄瑠璃、湯ぶくれ都々逸のたぐいは、明治以後も絶えなかった。義太夫、清元、常磐津、新内、端唄、都々逸、仮声、落語、浪花節、流行唄、大抵の音曲は皆ここで聴くことが出来たが、上手なのは滅多に無いのも昔からのお定まりであった。それでも柘榴口が取払われて、浴槽内の演芸会はだんだんに衰えた。
女湯には「お世辞湯御断り申候」というビラをかけて置く湯屋があった。さなきだに、女客は湯の使い方が激しい上に自分の知り人が来ると、お世辞に揚り湯を二杯も三杯も汲んで遣る。それが又、あがり湯濫用の弊を生ずるので、湯屋でも「お世辞湯お断り」の警告を発することとなったのである。それでも利き目がないらしく、女湯は男湯よりも三倍以上の水量を要すると云われていた。殊に男客に比べると、女客は入浴時間も非常に長いから、湯屋に取っては余り有難いお客様ではなかった。