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うきふね
文豪怪談傑作選・特別篇 鏡花百物語集
泉 鏡花
線上閱讀泉 鏡花《文豪怪談傑作選・特別篇 鏡花百物語集(うきふね)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 32,938 字 · 67 頁
今度も、別荘の主人が一所で、新道の芸妓お美津、踊りの上手なかるたなど、取巻大勢と、他に土地の友だちが二三人で、昨日から夜昼なし。
向う側の官営煙草、兼ねたり薬屋へ、ずっと入って巽が、
「御免よ。」
「はい、お出でなさいまし。」
唯、側対いの淡路屋の軒前に、客待うけの円髷に突掛って、六でなしの六蔵が、(おい、泊るぜえ)を遣らかす処。――考えても――上り端には萌黄と赤と上草履をずらりと揃えて、廊下の奥の大広間には洋琴を備えつけた館と思え――彼奴が風体。
傍見をしながら、
「宝丹はありますかい。」
「一寸、ござりまへんで。」
「無い。」
「左様で、ござりません。仁丹が可うござりますやろ。」と夕間暮の薬箪笥に手を掛ける、とカチカチと鳴る環とともに、額の抜上った首を振りつつ大な眼鏡越にじろりと見る。
「宝丹が欲しいんだがね。」
「強い、お生憎様で。」
「お邪魔を。」
「何うだ、姉え、これだけじゃ。」
六は再指二本。
この、笠ぐるみ振分けを捲り手の一方へ、褌も見える高端折、脚絆ばかりの切草鞋で、片腕を揮ったり、挙げたり、鼻の下を擦ったり、べかこと赤い目を剥いたり、勝手に軒をひやかして、ふらふらと街道を伸して行くのが、如何にも舞台馴れた演種に見えて、巽はうかうか独笑してその後に続いたのである。