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うきふね

文豪怪談傑作選・特別篇 鏡花百物語集

泉 鏡花

線上閱讀泉 鏡花《文豪怪談傑作選・特別篇 鏡花百物語集(うきふね)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 32,938 字 · 67 頁

青空文庫

巽は目を離して指したが、宮歳の顔を見て、びた声して低く笑った。

「はははは、べッかっこをするんじゃありませんよ――。然うすると、海の色が朝からはじめて、颯と一面に青く澄んで、それが裏座敷の廻縁の総欄干へ、ひたひたと簾を流すように見えましてね、縁側へ雪のような波の裾が、すっと柔かに、月もないのに光を誘って、遥かの沖から、一よせ、寄せるような景色でした。

悚と涼しく成ると、例の頬辺が冷りとしました、螢の留った処です。――裏を透して、口の裡へ、真珠でも含んだかと思う、光るように胸へ映りました。」

敷居に凭れかかり、団扇を落して聞いていた婦は、膝の手を胸へ引いて、肩を細く袖を合せた。

「可厭な心持じゃなかったんです――それが、しかし確に、氷を一片、何処かへ抱いたように急に身を冷して、つるつると融るらしく、脊筋から冷い汗が流れました。香がします、水のような、あの、螢の。」

月の柳の雫でも夜露となれば身に染みる。

「私は何かに打たれたように、フイと席を立って戸外へ出ました。まだ明い。内の二階で、波ばかり、青く欄干にかかったようには、暮れてはいません。

名所図絵にありそうな人通りを見ていると、最う何もかも忘れました。