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うきふね

文豪怪談傑作選・特別篇 鏡花百物語集

泉 鏡花

線上閱讀泉 鏡花《文豪怪談傑作選・特別篇 鏡花百物語集(うきふね)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 32,938 字 · 67 頁

青空文庫

「虫ですかしら……油が煮えるのでしょう。」

幹事は耳を澄したが、

「いえ、行燈の灯は動きません。……はてな、おはぐろを嘗める音かしらん。」

「…………」

「それもお互に知りませんな――ああ、ひたひたと、何の音だか。」

「ああ。」

「あれだ。」

殆ど同時に声を合せた。次の六畳の真中の、耳盥から湧くように、ひらひらと黒い影が、鉄漿壺を上下に二三度伝った。黒蜻蛉である。かねつけ蜻蛉が、ふわふわと、その時立ったが、蚊帳に、ひき誘われたようにふわりと寄ると、思いなしか、中すいて、塔婆に映って、白粉をちらりと染めると、唇かと見えて、すっと糸を引くように、櫺子の丸窓を竹深く消えたのである。

幽霊の掛軸は、直線を引いて並んだ。行燈の左右のこの二人の位置からは見えない。が、白い顔の動いたような気勢がした。

「考えものです――発起人方、幹事連と、一応打合せて、いまの別亭の事は誰にも言わずに、人の出入りをしないようにした方が可いかとも思います。」

植込を返しながら、白尾がしんみりと葉の下に沈んで言った。

「……広間が暗くなっていますね、……最う会をはじめました。お気をつけなすって。