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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 頁

青空文庫

自分がいつも人へいう手を、主に先へいわれてしまったからである。

「拙者が、この山家の亭主半兵衛です。きょうはようお越しくだされた」

「いや、ずいぶん、執こくお門を叩いて、さぞうるさく思われたでしょう」

「はははは。正直、迷惑仕った。しかしお眼にかかってみれば、其許のようなお客と、稀に会ってみるのも、気ばらしというもの、きょうはごゆるりなさい」

座をかえて、半兵衛は、藤吉郎へも席をすすめ、

「お客人は、いったい何を求めて、こんや山家へお越しでござったか。ここはいわゆる――山中長物なし、ただ禽の音あるのみ――ですが」

座は、客より下へ取っているが、眼は微笑をたたえて、風来の客を、ほんの気慰みに扱っているという容子。

藤吉郎は、ここでじっと、無遠慮な眼をもって、彼を見つめた。

なるほど、丈夫な体ではないらしい。肉は薄く、面は蒼い。しかし、皓歯明眸である。わけて唇の紅いのが眼につく。

総じて、人品のいいことは、生い立ちのよいせいにあろう。物静かである。話は小声のほうで微笑をもってものをいう。――けれど、このままがこの人間のありのままかどうか疑問である。

たとえば今日の山は、山と戯れて遊びたい気のするほど平和であるが、いつぞやの暴風には、谷は吼え木々はさけんで吹き飛ばされそうだった。