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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 頁

青空文庫

きのうよりも今日の彼は、まったく真剣であった。切腹ということばも、詭弁でなく、その熱意からわれ知らず出てしまったのである。

蔑むよりも彼女はむしろ同情を深めて、その文を兄の病床へ持って帰った。

半兵衛は一眼見たままで、うんもすんもいわなかった。小半日も瞑目していた。夕方になった。きょうも月の夜に入りかけた。

「小熊。牛を曳け」

急に云い出したのである。外出する様子におゆうは驚いて、布子や胴服を厚く兄の身へ着せた。

半兵衛は、牛に乗って出て行った。小熊を道案内に沢へ下りてゆくのだった。見ると、彼方の芝地に、飲まず喰わず、なお、禅坊主のようにあぐらをくんで坐っている者の影が月下に見える。

遠方から猟師が見つけたら狙いそうな恰好である。半兵衛は牛を降りて、つかつかとそこへ近づいて行った。そして藤吉郎の前へ自分も坐った。慇懃に頭を下げていった。

「客どの。きょうは失礼した。病骨の山中人に過ぎないこの方へ、さりとは、何を見どころに御執心か、勿体ない御礼儀ではある。士はおのれを知る者のために死すとかいう。あだにはいたさん。心に刻みおく。――したがかりそめにも、ひと度は斎藤家に随身いたした半兵衛でござる。