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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 頁

青空文庫

「はいッ」

縁を下りて、彼女は、裏へ出て行った。みると老母は、邸内の空地を耕して菜園とした畑で、きょうも百姓の持つ鍬を把って、秋茄子の根土を掻いているのだった。

まだ昼なかは残暑。

畑の土いきれは殊に暑い。鍬を持つ老母の手には汗塩が光っていた。

「まあ、このお暑いのに」

寧子はつい、そう口に出てしまう。

常々、老母がいう、

(百姓は、好きですること。必ず気遣うてくれるな)

ということは、何度も聞いていながら、百姓育ちでない、また、百姓の真味を知らない彼女には、それはただ労働するという姿にしか見えなかった。

でもこの頃は、だんだんに老母がなぜ百姓を止めないか――その心もちが少し分りかけて来たような気もする。

何かにつけて、老母はよく、

(土の恩)

ということを口にする。

貧苦の中に、四人の子を大きく仕上げ、自分もこの年まで、ともあれ飢死もせず生きて来られたのは、土の御恩だというのであった。

そして朝は、太陽へ拍手を鳴らして拝む。

それも、中村時代からの習慣にしていることだという。

以前の生活を忘れまい。

急に、美衣美食に狎れ、土と太陽の恩を忘れたら、きっと罰があたって、病にかかろう。