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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 頁

青空文庫

おゆうは、聞くと、身を縮めて怖れた。それは、いつか晩春の夜、築山の木蔭で、主君に戯れられたことを未だに脅えていたからであった。

「嫌か」

訊くと、

「どうぞ。なんとか、お断りして」

とのみで、おゆうは、涙さえうかべた。主君の命と聞いただけに、顫いて答えるのだった。

「泣かいでもよい。お断りすればよいのだ」

半兵衛も、強いる気はない。妹の怖れているところもわかっている。

余りに瑾のない茶は、かえって風情がないとかいうが、どうも、わが主君にも、困った瑾がある。それも茶※(「怨」の「心」に代えて「皿」、第3水準1-88-72)の風情とか、人間味とか、観方によっては、おもしろいとも眺められるが、女性の潔癖からは、到底男の持つこの瑕は、おもしろいなどと解されるはずもない。

まして、菩提山の城にいては深窓の姫として育てられ、自分と山住居してからは、世間の表裏も知らない深山の処女である。こんな話でさえすぐ涙をうかべる妹である。――半兵衛は、無理もないと、そのままを、彦右衛門まで伝えて断っておいた。

この秋も、無事である。

城内の武士は、毎日一堂に集まって、半兵衛、彦右衛門などを中心に、武を練り、領土を見廻って、藤吉郎はなくても、よく留守していた。