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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 頁

青空文庫

藤吉郎も、聴けば限りない用務に飽いたらしい。きょうは家臣達へそういって一切を抛やった姿である。

独り自分の居間にいた。

行儀のよい城主ではない。家臣からは「殿」と呼ばれているが、彼自身はいわゆる殿様になり澄ましていなかった。時々褥の外へ二本の脚を長々と伸ばして、ごろりと横になる。

手枕のまま、何事か按じているらしく、眼をつぶる。寝るまでもない。

とまた、腹這いになって、ぽかんと、庭面を見たりしていた。

そして、この小閑に、体を遊ばせてみると、すぐ体をもてあます自身に気づいて、

「おれは、何という、無芸無趣味な人間だろう」

と、自分で感心したりした。

「身に較べるのも勿体ないが、信長様は、総じて多趣味、また御器用でいらっしゃる。小舞や鼓は上手、連歌もなさる、茶事もお好き。そういうこととなると、おれには、はて、何の能があるかしらて?」

考えてみると、彼は、およそ何も持たなかった。

「ぜひないことだ。信長様の育ちと、おれの生い立ちと、きょうまで通って来た日月がちがっている。いかに茨の中の御苦難はこえて来ても、おれほどな道ではなかった」

彼はまた、ぼんやりと、過去の艱難を思い出していた。