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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 頁

青空文庫

「困ります」

と、縋るのを、その兵が、ぽかッと撲りつけて、肩で風を切って行った。巡視中の藤吉郎が、ふと見つけたので、

「召し捕れ」

と、部下へ命じた。

本陣の東福寺へ突き出すと、信長は、よくしたといって、兵の具足を奪りあげ、東福寺門前の大木に縛りつけた。

そして、その罪状を明記し、七日間曝した上で首を刎ねろと命じた。

東福寺の門前は、日々、夥しい往来だった。多くは京都の豪商や公卿たちであった。また、社寺の使い、用度の品を搬びこむ商人、何しても雑沓だった。

「何じゃろ?」

皆、一度はそこに足を止めた。そして高札と、大木の根に縛められている人間とを見くらべた。

「お味方の兵でも、犯せば仮借をなさらない。稀有なことじゃ」

洛中の庶民は、信長の公平と、法令の峻厳に感じ合った。かねて諸処の公札に、

――一銭を掠奪しても馘る

と書いてある法文が、信長の軍自体から先に励行されているのを見た。一般の布告に掲げられた厳重な法律にも、誰ひとり不平はつぶやかなかった。

「一銭切。――一銭切じゃ」

そんな言葉が、当時、庶民のなかに流行った。

岐阜を発したのが九月七日――それからわずか二十一日目には、もうこうして、信長の姿は、中原にあったのであった。