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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 頁
太陽は爛として、町の上にあるが、どこ一軒、商売をしている家もない。ただ夜半のような風が往来を通ってゆく。
帯屋も閉まっている。酒屋の戸も閉ててある。物売りの声もしない。
――が、めずらしく、ここの一軒だけは開いていた。南之荘のと或る町辻で、軒ばを見れば、廂の低い古板に、
御かたな鞘 ぬし宗祐
と、見える。
塗師の店だった。往来に向かっている店がそのまま仕事場になっている。刀の鞘塗が主で、茶器家具などは、頼まれれば、しないこともないといったふうな主で、その主はまた、
(おもしろい変り者)
で、その看板以上、堺の町では通り者であった。変り者には違いない。
今にも戦争が始まる、織田軍が侵入してくると、昼ながら堺の殷賑もまるで墓場のようにさびれているのに、塗師の亭主だけは、きょうも漆桶と共に、ぽつねんと、薄暗い店に坐っている。
その亭主はもう五十がらみ。――と、人はいうが、もっと老人なのか、もっと若いのか、見当のつかない男で、話せば飄逸で元気で、わけて若い者をつかまえ、女ばなしなどは好きだし――風貌だけで見れば、歯は抜けているし、すこし猫背だし、魚の骨みたいに体には肉がないし、しじゅう水ッ洟はすすっているし、無精で、うす汚いこと、仕事場の漆ベラや、砥の土や、漆茶碗などと見分けのつかない程である。