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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 頁
「それ程までに申すなら、自信もあることだろう。――しからばお元気に参られよ」
「忝い」
藤吉郎は、側の侍へ、
「前田どのの駒を曳け」
と、いいつける。
「いや、御会釈に及ばん。先へお召しなさい」
「ごめん――」
と、彼が馬上へかえった時、犬千代の駒もそこへ曳かれて来た。
「おさらば」
馬上から、もいちど会釈して、藤吉郎はそのまま駒を進めた。彼の旗さし物には、まだ何の印もなかった。無地の赤旗が、幾旒か兵馬のあいだに立って、犬千代の茫然たる眼の前を流れて行った。
……さらば。
との声ももう届かないが、半町も行ってから、藤吉郎はまた、犬千代の姿を振り向いていた。初秋の明るい陽が、笑っている白い歯を見せているではないか。強いてではない、いかにも自然に、その顔は笑って征くのだ。
赤とんぼの潮流が、青空を清々に旋ってゆく。――犬千代は黙々と、ひとり駒を清洲の方へかえして行った。
苔の深さに驚かされる。
立ち入ること禁断の寺院の苑のように、ここの土豪屋敷の広い庭にも、何百年か知れない青苔が一面にながめられる。
石の陰には叢竹。
泉には芙蓉の花。
秋の昼である。閑寂そのものであった。