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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 頁

青空文庫

そして、ひそかに、

(なるほど、このほうが、二人で語るには、ふさわしいな)

と、思った。

おたがいに、かつては、犬千代と呼び、猿々と呼ばれ合った友だちである。立身はいつか友情を疎遠にする。近頃はめったにこうして寛ぎあう日もない二人だった。

「筑前、酒をすこしくれぬか。陣所にあるかな?」

「酒を。……あるにはあるが」

「無数の死屍を弔うて来たせいか、すこし酒気が欲しい」

「前田どのへ、白湯がわりに、酒を上げたがいい」

と、うしろの小姓にいいつけてから、

「前田又左衛門ともあろう者に似気ない気弱な……」

と笑った。

小姓の捧げる冷酒の杯をとって口にふくみながら、

「船頭でも船に暈うことがあるという。こんどの御合戦ばかりは、血に暈うた」

「きのうは、如何なされた」

「ただ夢中であった。おぬしはどう働いたか」

「勝敗歴然と見えてからは、小高い所に佇って、黙然と、ただ眺めていた」

「眺めていた。ふふむ……」

「敵のために、おれは惜しんだ。もし勝頼が、滝川を防ぎとしてじっと固めていたら、長篠の孤城も、墜ちざるを得なかった。また、われわれの大兵も、長陣はつづかない。よく持って十日か半月だったろう。