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いちのくらさわなんりょう
新編 風雪のビヴァーク
松濤 明
線上閱讀松濤 明《新編 風雪のビヴァーク(いちのくらさわなんりょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 25,081 字 · 51 頁
だが、それがどうしたというのだ。さらにさらに大きな不安と困難とに平然と立ち向いうる自分ではなかったのだろうか。矢玉尽きるとも、人間界の取っかかりまでは、どうともして踏み堪えるはずの自分ではなかったろうか。ただ小屋が、人の香りが胸を衝いたのだ。
いつしか真っ暗になってしまっていた。アルコール・コンロの弱い火の中に真っ黒な梁が頭の上に垂れ下っていた。小屋は森閑と静まり返っていた。コンロの光の及ばぬ隅は、漆黒の闇の中に閉ざされて、私を包む狭い空洞のみが明るい。ああ破壊者、俺は小屋の窓を破るとともに、せっかくこれまで作り上げてきたものを壊してしまった。今までたとえ天候が良くとも、万一悪天候に悩まされても、自分は死なないという誇りのもとに、晴天を享楽しつつ辿ってきた。だが、それは根底のないものだったのか。ここまで来たことすら僥倖だったのか。
小屋の中は寒かった。昼のアルバイトにもかかわらず、眼が冴えて四時頃になってようやくツェルトをかぶった。
三月三十日 快晴後曇
目が覚めた時は既に九時近かった。天候はぜんぜん予想を裏切って素晴らしく晴れ上がってしまった。しかし、今朝はもはやこれまでのように、自信と誇りとに胸を張って立ち上がれるほどの偉い自分だとはとうてい思えなかった。