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いちのくらさわなんりょう

新編 風雪のビヴァーク

松濤 明

線上閱讀松濤 明《新編 風雪のビヴァーク(いちのくらさわなんりょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 25,081 字 · 51 頁

青空文庫

ただこの上はスケジュールの外である悪沢に、せめてもの意地を張ってやろう、と考えて、急いで支度をして小屋を出た。まったく素晴らしい天候、燦々と照り映える強烈な日光は、とても目をあけていられないほどだが、ところが一体どうしたことか、肝心の雪眼鏡が一夜にしてどこかへ消えてしまったので、詮方なく眼をごく細めに開いて登高を開始した。背中はじっとりと汗ばむ。夏のような暑さであった。荒川岳の登りは一面の雪の斜面となっており、ぜんぜんルートは判らない。ただ通れそうな路らしいところを選んで斜めに高きを迫った。長い、単調な登高。リッジ一つ越えるとぱっと悪沢岳が眼の前に現われた。ずいぶん遠かった。魚無河内のカール一つをまっすぐに突切り、遮二無二悪沢へと直進して十二時半ようやく鞍部に着き、残り少ない煙草をふかしながら来し方を眺めた。

目の前に昨日越えた赤石が大きく空を画している。一昨日、聖から眺めた時、また昨日百間平から眺めた時のごとく、太々しく落着いてそれを眺められぬ自分を思うと、われながら腹が立ってならない。しかも山々はまったく無関心である。

悪沢の登り――遠目にはなかなか凄かったが、じつのところそれは見かけ倒しで、雪が風に飛ばされて明瞭な夏径がジグザグに露出していた。