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あべいちぞく

日本の文学 3 森鴎外(二)

森 鴎外

線上閱讀森 鴎外《日本の文学 3 森鴎外(二)(あべいちぞく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 68,545 字 · 140 頁

青空文庫

お佐代さんが茶を酌んで出しておいて、勝手へ下がったのを見て狡獪なような、滑稽なような顔をして、孫右衛門が仲平に尋ねた。

「先生。只今のはご新造さまでござりますか」

「さよう。妻で」恬然として仲平は答えた。

「はあ。ご新造さまは学問をなさりましたか」

「いいや。学問というほどのことはしておりませぬ」

「してみますと、ご新造さまの方が先生の学問以上のご見識でござりますな」

「なぜ」

「でもあれほどの美人でおいでになって、先生の夫人におなりなされたところを見ますと」

仲平は覚えず失笑した。そして孫右衛門の無遠慮なような世辞を面白がって、得意の笊棋の相手をさせて帰した。

お佐代さんが国から出た年、仲平は小川町に移り、翌年また牛込見附外の家を買った。値段はわずか十両である。八畳の間に床の間と廻り縁とがついていて、ほかに四畳半が一間、二畳が一間、それから板の間が少々ある。仲平は八畳の間に机を据えて、周囲に書物を山のように積んで読んでいる。このころは霊岸島の鹿島屋清兵衛が蔵書を借り出して来るのである。一体仲平は博渉家でありながら、蔵書癖はない。質素で濫費をせぬから、生計に困るようなことはないが、十分に書物を買うだけの金はない。