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あべいちぞく

日本の文学 3 森鴎外(二)

森 鴎外

線上閱讀森 鴎外《日本の文学 3 森鴎外(二)(あべいちぞく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 68,545 字 · 140 頁

青空文庫

目には涙が一ぱい浮かんでいた。

「それはいかんぞよ」こう言って忠利は今まで長十郎と顔を見合わせていたのに、半分寝返りをするように脇を向いた。

「どうぞそうおっしゃらずに」長十郎はまた忠利の足を戴いた。

「いかんいかん」顔をそむけたままで言った。

列座の者の中から、「弱輩の身をもって推参じゃ、控えたらよかろう」と言ったものがある。長十郎は当年十七歳である。

「どうぞ」咽につかえたような声で言って、長十郎は三度目に戴いた足をいつまでも額に当てて放さずにいた。

「情の剛い奴じゃな」声はおこって叱るようであったが、忠利はこの詞とともに二度うなずいた。

長十郎は「はっ」と言って、両手で忠利の足を抱えたまま、床の背後に俯伏して、しばらく動かずにいた。そのとき長十郎の心のうちには、非常な難所を通って往き着かなくてはならぬ所へ往き着いたような、力の弛みと心の落着きとが満ちあふれて、そのほかのことは何も意識に上らず、備後畳の上に涙のこぼれるのも知らなかった。

長十郎はまだ弱輩で何一つきわだった功績もなかったが、忠利は始終目をかけて側近く使っていた。酒が好きで、別人なら無礼のお咎めもありそうな失錯をしたことがあるのに、忠利は「あれは長十郎がしたのではない、酒がしたのじゃ」