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うつりが
日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江
近松 秋江
線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁
母親はまたそのくぐりをごろごろと開けて向うへ入った。そして同じように、
「どうぞ、こっちゃへずっとお入りやしとくれやす。暗うおすさかい、お気つけやして」
といって中の茶の間の上り框の前に立って私のそっちへ入るのを待っている。私は手でそこらをさぐりながらまた入って行った。と、そこの茶の間の古い長火鉢の傍には、見たところ六十五、六の品の好い小綺麗な老婦人が静かに坐って煙草を喫っていた。母親はその老婦人にちょっと会釈しながら、私の方を向いて、
「構いまへんよって、どうぞそこからお上がりやしてくれやす。お婆さん、どうぞ御免やしとくれやす」といって、自分から先きに長火鉢の前を通って、すぐその三畳の茶の間のつきあたりの襖の明いているところから見えている階段の方に上がってゆく。私はそれで、やっとだんだんわかってきた。
「これは、この品の良い老婦人の家の二階を借りて同居しているのだな」と、心の中で思いながら自分もその老婦人に対して丁寧に腰を折って挨拶をしつつ、母親のあとから階段を上がっていった。すると、階段のすぐ取付きは六畳の汚れた座敷で、向うの隅に長火鉢だの茶棚などを置いてある。