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うつりが
日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江
近松 秋江
線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁
そして、その奥にはもう一間あって、そちらは八畳である。
母親は階段を上がるなり、
「おいでやしたえ」とそっちへ声をかけると、今まで暗いところを通ってきた眼には馬鹿に明るい心地のする電燈の輝いている奥から女がさっきのままの姿で静かに立って来た。まるで先ほどの深く考え沈んでいる様子とは別人のごとく変って、打ち融けた調子で微笑みながら、
「お越しやす。先ほどはえらい失礼しました。こんな、むさくるしいところに来てもろうて、済んまへんけど、あこよりここの方が気が置けいでよろしいやろ思うて」と、彼女はお世辞のない、生な調子でいって、八畳の座敷の方に私を案内した。
私はもう、それで、すっかり安心して嬉しくなってしまい、座敷と座敷の境の閾のところに立ったまま、そこらを見廻すと、八骨の右手の壁に沿うて高い重ね箪笥を二棹も置き並べ、向うの左手の一間の床の間にはちょっとした軸を掛けて、風炉釜などを置いている。見たところ、もう住み古した雑な座敷であるが、それでも八畳で広々としているのと、小綺麗に掃除をしているのとで何となく明るくて居心地が好さそうに思われる。座敷のまんなかに陶物の大きな火鉢を置いて、そばに汚れぬ座蒲団を並べ、私の来るのを待っていたようである。