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うつりが
日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江
近松 秋江
線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁
僕は黙っているし、お宮も黙ってとぼとぼと蹤いて来ていたが、ふと月を見上げて『いい月だわねえ』と、いいながら真白い顔をこちらに振り向けた時には、まだ眼に涙を滲ませていて、そりゃ綺麗なことは綺麗だったよ」
さすがに柳沢も思い入ったようにいった。
私は、それを聴いていて胸が塞がるような気がした。私がわずかばかりの銭の工面をして、お宮にただ逢うのでさえ精一ぱいでいるのに柳沢はもうお宮とそんな小説の中の人間のような楽しい筋を運んでいるかと思うと、世の中のものが何もかも私を虐げているような悲痛な怨恨が胸の底に波立つようにこみあげて来た。そうしてよそ目には気抜けのしたもののように呆然として自分一人のことに思い耽っていた。すると自分が耐力もなく可哀そうになって来て、今にも泣き溢れそうになるのをじっと呑み込むように抑えていた。
ややしばらく経ってから取着手もない時分になって、
「歌舞伎座にもつれて行ったのか!」と、曖昧な勢のない声を出した。
「その帰途に鳥安にいったのだ」
そして私は腹の中で、先日お宮が、
「書生らしい、厭味のない人よ。鳥安を出てから浅草橋のところまで一緒に歩いて行ったの。