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うつりが
日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江
近松 秋江
線上閱讀近松 秋江《日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江(うつりが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 頁
といって出てゆこうとしながら、じっと女の方をなおよく見ると、平常から大きい美しい眼は、今にも、ちょっと物でも触れば、すぐ泣き出しそうに、一層大きくこちらを見張って、露が一ぱい溜っている。私はその眼に心を残しながら、合壁の隣家へ入っていった。
四
そこの家も、女の家と同じ造りで三間の家であったが、もうこの間から、そのことで、ちょいちょい顔を見合わして、口も利いている七十余りの老婆は酒が好きと思われて中の茶の間の火鉢の前に坐って、手酌でちびりちびり酒を飲んでいた。もう大分上機嫌になっていたが、見るから一と癖も二た癖もありそうな、癇癪の強いぎょろりとした大きな出眼の、額から顳のあたりが太い筋や皺でひきつったようになって、気むずかしいのは、言わずと知れている。
そこには、その老婆のほかに主人の若い女房がいて庭に立ち働いていたり、主人の妹らしい三十くらいと二十余りの女が来合わしていたりして、広くもない座に多勢の人間がいるのが、私には自分の年配を考えて、面伏せであったり遠慮であったりした。そして、近づきのない京都三界に来て、そうしたわけでそんな家の厄介になったりするのが何ともいえず欝屈であったが、それも思いつめた女ゆえと諦めていた。