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きゅうぶんにほんばし

旧聞日本橋

長谷川 時雨

線上閱讀長谷川 時雨《旧聞日本橋(きゅうぶんにほんばし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 158,045 字 · 322 頁

青空文庫

「この上へお着せ。」

おもよどんが、紅絹裏の糸織のどてらを長く上にかけた。

曙山さんは懐紙で顔をあおぎながら立膝をして、お膳の前の大ざぶとんの上に座り直した。

「さあ、みんなおすしおあがり。」

おそろしく横柄だった。あたしはかつて他人から、そんな風に声をかけられたことがなかったから、いよいよ気狂いだと思った。けれどみんなは、嬉しそうに、楽しそうに、ゲラゲラ笑っていた。

この人の正体がやっとわかった。女形だったのだ、旧時代の遺物そのままに育てられて、久しく阪地へいっていた俳優だったのだ。東京の水になれないので、むかしのままのお坊ちゃんで、とお師匠さんはある時いっていた。お金ちゃんの説明によると、

「曙山さんは女の通りに育てられたのよ。けど、ほんとは女かもしれないわ。裁縫もよくするし髪も巧者に結うし、なんでもかでも女の通りよ。だけど男だっていうの、女の通りに育てられた男だっていうの。こんど来たら、なんだか男と半分半分になっちゃったけど、もうせんには、ほんとに女だったわ。だから、おッしょさんも、女のお弟子さんとおんなじだって――」

そしていった。この間も、新富座へ乗込みのときは、以前の通りに――鬘だったけれど――楽屋下地に結って、紫のきれを額にかけて、鼈甲の簪をさして、お振袖で、乗組んだのだと。