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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(四)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(四)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 217,272 字 · 434 頁

青空文庫

それが彼に取っては忍び難い苦痛であるので、結局かれは家を捨て、妻を捨て、さらに我が身をほろぼすをも顧みないで、かの絵馬を抱いて姿を隠したのであろう。つまり一種のマニアである。この時代でも、余り物に凝り過ぎると馬鹿か気違いになると云ったのであるが、多左衛門も絵馬の道楽に凝り過ぎて、殆ど気違いのようになってしまったらしい。余りのあさましさに云うべき言葉もなく、お才も与兵衛も顔をみあわせて溜め息のほかは無かった。

その日が暮れると、約束の通りに万次郎が来た。与兵衛は主人の家出の事情を打ち明けて、そのありかの知れるまでは運動費の二千両を渡しかねるから、暫く猶予してくれと懇願すると、万次郎はそれを信じなかった。家内の者が共謀して、主人をどこへか隠したのであろうと彼は邪推した。

「ゆうべも番頭に云った通り、おれは親切ずくで働いているのだ。それ無にして、変な小細工をするなら、おれはもう手を引くからそう思ってくれ。後日に何事が起っても、主人の首に縄が付いても、ここの店が引っくり返っても、決しておれを恨みなさんなよ。こんなことに係り合うのは真っ平御免だ」

さんざんに機嫌を損じたらしい彼は、あらあらしく畳を蹴って立ち去った。