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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(四)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(四)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 217,272 字 · 434 頁

青空文庫

しかしここまで踏み出して来た以上、詮議に詮議を重ねなければならないというので、左内はふたたび富士裏の方角へ向って引っ返すことにした。暗い田圃路を縫って、大泉院の神明宮の前を抜けて、さらに人家の無い畑地へ来かかると、路ばたには三百坪あまりの草原があって、その片隅には杉や欅の大樹が木立を作っていた。その木立のあたりで「おうい、おうい」と微かに呼ぶ声がきこえたので、三人は俄かに立ちどまって耳を澄ますと、呼ぶ声はつづけて聞えた。もう猶予すべきでないので、左内はその声をたずねて進んだ。喜平次と伊太郎も続いて行った。しかも今夜はあいにくに暗い夜である。三人はもちろん無提灯である。唯その声をたよりに尋ねて行くのほかは無いので、彼らは秋草を踏み分けながら手探りで歩いた。

どうやら木立のあたりへたどり着いた頃には、怪しい声も止んでしまった。こうなると、見当が付かないので、三人は暗いなかに突っ立って暫く耳を傾けていると、やがて違った方角で再び呼ぶ声がきこえた。しかも今度は「岩下左内、待て、待て」というのである。自分の名をはっきりと呼ぶからには、風の音や梟の声の聞き誤りではない。