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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(四)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(四)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 217,272 字 · 434 頁

青空文庫

「わあ、天狗……」

それでも三人はあとへ引っ返さずに前にむかって逃げた。彼らは顔の赤い、鼻の高い大天狗を見たのである。天狗は往来を睨みながら、口には火焔を吐いていた。彼らは京に育って、子供のときから鞍馬や愛宕の天狗の話を聞かされているので、それに対する恐怖はまた一層であった。気も魂も身に添わずというのは全くこの事で、三人は文字通りに転けつ転びつ、息のつづく限り駈け通すうちに、伝兵衛は石につまずいて倒れて、脾腹を強く打って気絶した。手代と下男はいよいよ驚いて、正体のない主人を肩にかけて、どうにかこうにか鮫洲の町まで逃げ延びた。

こうなっては江戸入りどころで無い。そこの旅籠屋へ主人をかつぎ込んで介抱すると、伝兵衛は幸いに蘇生した。その話を聞いて、宿の者どもは云った。

「あの辺に天狗などの出る筈がない。例の狐が天狗に化けて、おまえさん達を嚇かしたのだ」

こちらは大の男三人であるから、狐と知ったら叩きのめして、その正体をあらわしてやったものをと、今さら力んでも後の祭りで、又もや怪談の種を殖やすに過ぎなかった。女に化け、天狗に化け、この上は何に化けるであろうと、気の弱い者をいよいよおびえさせた。