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やなぎばしものがたり

柳橋物語

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《柳橋物語(やなぎばしものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 頁

青空文庫

しがみついている手をようやく放し、そこへ置いた包を直して、自分も横になりながらそっと寝かせた。どこか遠くで酔った唄ごえがしていた。三味線の音もかすかに聞える。おせんは静かに身を起こした、足がわなわなと震えだし、喉がひりつくように渇いた。

――さあ早く、いまのうちに。

おせんは夢中で歩きだした。耳がなにか詰められたように、があんとして、いまにもたちくらみにおそわれそうだった。

――早く、早くいってしまうんだ。

おせんは走りだした。するとふいに子供の泣きごえが、聞えた、「ああちゃん」という声がはっきりとするどく、すぐ耳のそばで呼ぶかのように聞えた。子供の手がぎゅっと肩を掴む、子供は身をかたくして震えている。震えながら奇妙なこえで笑った。「はは、ばぶばぶね、ああちゃん、ははは」それは出水の中を逃げるあのときのことだ、恐ろしいということを感づいていながら、おせんの言葉に合わせてけなげに笑ってみせた。ああ、おせんは足が竦み、走れなくなって喘いだ。

――堪忍して幸坊、堪忍して。

両手で耳を掩い、眼をつむって立停った。子供の泣きごえはさらにはっきりと、じかに胸へ突刺さるように聞えた。