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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《柳橋物語(やなぎばしものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 頁
「そうなんですってよ、頭梁ってひとが庄吉さんの腕にすっかり惚れこんだんですって、お加代っていう娘さんも庄吉さんが好きだったって話でね」
おせんはちょっと立停った。しかしすぐ歩きだしながら、いま聞いた話がなにを意味するか考えてみた。うわのそらで聞いていたのである、もちろん言葉そのものはわかっているが、その意味は聞きながしていた。それはとうてい有り得ないことであったから。
――が、おせんはとつぜん額から白くなり、おたかの腕を掴んで立停った、おたかは吃驚して声をあげた。
「庄さんが、お嫁を貰ったんですって」
「放してお呉れな、痛いじゃないかおせんちゃん」
「本当のこと云って頂戴、本当のこと」
「痛いってば、ここをお放しよ」
「お願いよ、おばさん」おせんは縋りつくように云った、「――庄さんがお嫁を貰ったって、嘘でしょう、ねえ、そんなことがある筈はないもの、嘘でしょうおばさん、ねえ云って、そんなことは嘘だって」
「いって自分で訊いてみれば、いいじゃないの、あたしは知ってることしか知っちゃいないよ」
「そらごらんなさい嘘じゃないの」
こう云いながらおせんは歩きだした。きみ悪そうにおたかが去っていったことも、曲り角を通り越したことも知らず、茅町まで来てようやく我に返り、そこでなお暫く棒立ちになっていた。