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えのきものがたり
榎物語
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《榎物語(えのきものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 33,519 字 · 67 頁
「おとなの約束とは思えないな」と安二郎は云った、「恋というよりは、お互いのたよりない気持が寄りあったのでしょう、男と女とではなく、子供同志が指切りをしたようなものじゃないだろうか」
「あの人から手紙が来たのは、あたしが二十の年でしたわ」
「おどろいたな」安二郎は首を振った、「あなたが河見家の人だとは知らなかった、――いったいどうしてそれを隠していたんです」
「隠すつもりはなかったんです、ただなんとなく云いたくなかった」さわは自分の心の中をさぐるような表情をした、「誰か生きていてくれればいいけれど、もし自分ひとりしか助からなかったのだとしたら、河見の家に付いた財産やなにかを、自分で始末しなければならない、そう思うだけでもぞっとしたくらいでした」
「なるほど、それで越重の身代にも気が進まなかったんですね」安二郎は頷いて云った、「河見さんの遺産は代官所で始末をし、そのまま代官所で預かっていると聞きました、ふつうは遺族がなければ官に収められるのですが、河見家には功績があるので、異例な扱いになったのでしょう、こうなったら名のって出ることですね」
「いいえ」とさわはかぶりを振った、「いまさら名のって出る気などはございません、あたし遺産などは一文も欲しくはありません、どうかこの話はここだけのことにして下さいまし」