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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 頁

青空文庫

暗殺するという法はない、しかも暗殺者たちは上意討だと云ったそうです、上意とはいったい誰の意志ですか、侯が逼塞になり、まだ跡式のきまらない現在、上意といえる人がいるんですか、原田さん、暗殺者たちが上意と云った、その人が誰だか、聞かせてくれませんか」

「貴方は御存じでしょう」と七十郎はさらにたたみかけた、「その人は誰ですか、原田さん、伊達家六十万石の藩主に代って、上意と云うことのできるのは誰ですか、聞かせてもらえませんか」

甲斐の額に皺がよった。

「わかったよ」と甲斐は微笑した。やや尻下りの眼が細くなり、唇のあいだから、白いきれいな歯が見えた。いかにもなごやかな、温かい微笑である。「もうそのくらいでいい」と甲斐は云った、「七十郎が武芸の達者で、兵学にくわしくって、放浪癖があって、酒が強くって、女に好かれるということはよくわかっている、しかしもういい、――飲まないか」

七十郎は甲斐の顔をみつめた。その眼は刺すようにするどかったが、しだいに嘆賞の色をおびてきた。彼は太息をつき、甲斐に向かって微笑した。

「飲みますとも」と七十郎は盃を取った、「しかし、もうひと言だけ訊いていいですか」