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はるはばしゃにのって
機械・春は馬車に乗って
横光 利一
線上閱讀横光 利一《機械・春は馬車に乗って(はるはばしゃにのって)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 77,492 字 · 156 頁
だけど、あたし、こんなに我ままを云ったのも、あたしが云うんじゃないわ。病気が云わすんだから」
「そうだ。病気だ」
「あたしね、もう遺言も何も書いてあるの。だけど、今は見せないわ。あたしの床の下にあるから、死んだら見て頂戴(ちょうだい)」
彼は黙って了った。――事実は悲しむべきことなのだ。それに、まだ悲しむべきことを云うのは、やめて貰いたいと彼は思った。
花壇の石の傍で、ダリヤの球根が掘り出されたまま霜に腐っていった。亀に代ってどこからか来た野の猫が、彼の空(あ)いた書斎の中をのびやかに歩き出した。妻は殆ど終日苦しさのために何も云わずに黙っていた。彼女は絶えず、水平線を狙(ねら)って海面に突出している遠くの光った岬ばかりを眺めていた。
彼は妻の傍で、彼女に課せられた聖書を時々読み上げた。
「エホバよ、願くば忿恚(いきどおり)をもて我をせめ、烈(はげ)しき怒りをもて懲(こ)らしめたもうなかれ。エホバよ、われを憐(あわ)れみたまえ、われ萎(しぼ)み衰うなり。エホバよわれを医(いや)したまえ、わが骨わななき震う。わが霊魂(たましい)さえも甚(いた)くふるいわななく。