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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

線上閱讀下村 湖人《次郎物語(じろうものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 頁

青空文庫

おまえたちが朝倉先生を慕う気持なんか実に尊い感情だよ。道理とりっぱに道づれの出来る感情だからね。しかしその尊い感情も、それに功名心がくっつくと、すぐしみが出来る。しみぐらいですめばいいが、次第にそれが生地みたいになってしまうから、危いんだよ。」

「お父さん、僕――」

と、次郎はやにわに、まだ机の上にひろげたままになっていた血書をわしづかみにして、

「こんなもの出すの、もうよします。」

彼はすぐそれをやぶきそうにした。

「まて!」

俊亮はおさえつけるように言って、

「おまえは、今日来た友達に、血書を書くことを約束したんではないかね。」

「約束しました。」

「その約束が取消せるのか。」

次郎は考えた。自分から言い出しておいてそれを取消すのは、自分の立場はとにかくとして、留任運動そのものに水をさすようなものであった。

「取消せまい。」

と、俊亮は念を押すように言ったが、

「いや、取消す必要もないだろう。おまえ自身でやぶいてすててもいいという気になれば、その血書の生臭味はもうそれで洗い流されたようなものだ。それに、いざストライキにでもなろうという場合、血書を取消したために、ものが言えないような立場になっても困るだろう。