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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
線上閱讀下村 湖人《次郎物語(じろうものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 117,781 字 · 235 頁
」
「その悪い方も、実は――」
仙吉は、そう言って首をたれた。すると女は、急に居丈高になって、
「馬鹿におしでないよ。なんぼなんでも、一斗やそこいらの酒がなくて、お店があけて置かれますかい。」
とどなりつけた。
次郎は、もうその時には、すっかりふだんの落ちつきを失っていた。彼はいきなり立ち上り、仙吉に向って罵るように言った。
「酒はあるんじゃないか。裏の納屋にいくらでもあるんだ。僕とって来てやるよ。」
彼は、仙吉があっけにとられて、まだ返事をしないうちに、もう売場の横の棚にふせてあった汲桶をおろし、それをさげて、いっさんに台所の方に走って行った。そして、井戸端でそれに水を七分ほども汲むと、それを手のひらで肩のところにかつぎ、定まらない足をふみしめ、ふみしめ、店に帰って来た。
店では、女が恐ろしい権幕で仙吉に何か食ってかかっているところだった。次郎はしかし、それには頓着せず、上酒の甕の蓋をとって、汲桶の水をその中にざあざあ流しこんだ。
次郎の顔は、その時、すっかり蒼ざめていた。彼は、しかし、甕の蓋をかぶせ終ると、いくらか血の気をとりもどして、女の方を見た。