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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

線上閱讀下村 湖人《次郎物語(じろうものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 117,781 字 · 235 頁

青空文庫

そして、それが、彼の興奮する感情をおさえおさえして、話の筋道をみだすことから、どうなり彼を救っていたのである。

次郎の話が終ってからも、朝倉先生は、

「そうか。……ふむ。」

と、返事とも、ひとりでうなずいたともつかない言葉を発したきり、しばらくは姿勢もくずさなかった。次郎は、最初手持無沙汰の感じだったが、沈默が永びくにつれて、それが、しだいに気味わるくさえ感じられて来た。彼は何度も先生の横顔をのぞいたり、足もとの草をむしったりした。風呂小屋と背中合わせになっている鶏小屋で、昼寝からさめたらしい鶏の声が、くっくっときこえて来たが、それで沈默がいくらかでも破れたのが、彼には、何かほっとする気持だった。

鶏の声がきこえ出すと、朝倉先生も、急にいましめを解かれた人のように、手足の姿勢をくずして、顔を次郎の方にねじむけた。その澄んだ眼には、次郎の全く予期しなかった微笑がうかんでいた。同時に、その奥に、あるきびしい光が沈んでいたことも見のがせなかった。

先生は、ごく静かな、しかし感情のこもった声で言った。

「本田、君は、ちょっとの間に、すばらしい経験をしたものだね。