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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
線上閱讀下村 湖人《次郎物語(じろうものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 117,781 字 · 235 頁
こんな種類の先生については、とかく、生徒間に、あることないこと、いろんな逸話が流布されるものだが、宝鏡先生についてもそれは例外ではなかった。中でも、最も奇抜なのは、――これは小使がたしかに事実だと証言したことだったが――ある雨の晩、先生が校内巡視をして宿直室にかえって来ると、その入口の近くの壁がぼんやり明るくなっており、その前に真黒な怪物が突っ立っている。先生はいきなり「何者だ!」と叫び、巨大な拳でその怪物をなぐりつけたが、怪物というのは、じつは雨合羽を着た電報配達夫だった、というのである。小使がとりわけ念入りに説明したことが真実だとすれば、配達夫は非常に腹を立て、先生を警察に引ぱって行こうとした。すると、先生は土下座をして平あやまりにあやまり、おまけに金一円を紙に包んで配達夫の手に握らせ、やっと内済にしてもらったとのことである。その頃の中学校の無資格教師にとって、一円という金が相当のねうちものであったことはいうまでもない。
この先生が板書する文字は、その巨大な体躯に似ず繊細で、いかにも綿密そうであり、算術や代数の式が黒板いっぱいに並んだところは、見た目も非常に美しかった。