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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

線上閱讀下村 湖人《次郎物語(じろうものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 頁

青空文庫

塾長室の戸をあけると、田召理事長が、すぐ自分から言った。

「陸軍省のかただろう。こちらにお通ししなさい。」

次郎は玄関にもどって来たが、やはりだまったままスリッパをそろえた。

「通じたかね。」

鈴田が次郎をにらみつけるようにして言った。

「ええ、通じました。塾長室におとおりください。」

次郎の返事もつっけんどんだった。

鈴田が荒田老の手をひいて先にあがった。平木中佐は靴をぬぎかけていたが、鈴田に向って、

「今日の式には、勅語の捧読があるんじゃありませんか。」

「ええ、それはむろんありますとも。……」

「じゃあ、靴はぬぐわけにはいかないな。ほかの場合はとにかくとして、勅語捧読の場合に軍人が服装規程にそむくわけにはいかん。」

「そのままおあがりになったら、いかがです。かまうもんですか。」

「かまうも、かまわんも、それよりほかにしかたがない。」

平木中佐は、片足ぬいでいた長靴を、もう一度はいた。

鈴田は、その時、じろりと次郎の顔を見たが、その眼はうす笑いしていた。

その間、荒田老は、黒眼鏡をかけた顔を奥のほうに向け、黙々として突っ立っていた。事務室にいた塾生たちは、入り口の近くに重なりあうようにして、その光景に眼を見はっていた。