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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

線上閱讀下村 湖人《次郎物語(じろうものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 頁

青空文庫

今度は思い切って耳朶をつかんだ。少々すべっこくて、頼りない感じがする。次郎は総身の力をその小さな爪先にこめて、直吉の耳朶をもみくちゃにした。

「ひいっ、畜生っ。」

直吉は悲鳴をあげた。同時に、今まで次郎の足にかけていた両手を思わず放してしまった。

とたんに次郎の体はうしろの方にぐらついた。次郎の十本の指は、直吉の耳朶をつかんだままだったが、彼の体の重みを支えるには少し弱すぎたらしく、次の瞬間には、彼の体は、砂利で固まった路の上に、ほとんどまっさかさまに落っこちた。

彼は、後頭部と肩のあたりに花火が爆発したような震動を感じて、ぼうっとなった。しかし、この瞬間は彼にとって大事な一瞬であった。彼は毬が弾ねるように起き上った。そして、まっしぐらに学校の方に走り出した。

ものの半丁ばかりは、まるで夢中だった。しかし彼は、直吉が追っかけて来るかどうかを確かめずには居れない気がした。で、走りながら、一寸うしろを振り向いた。すると直吉は、両手で耳朶を押さえながら、うらめしそうにこちらをにらんで立っていた。

次郎はいくらか安心した。同時に、ちらと見た直吉の様子が妙に恐ろしくなった。