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おうしゅうきこう
欧洲紀行
横光 利一
線上閱讀横光 利一《欧洲紀行(おうしゅうきこう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 120,107 字 · 241 頁
六月廿一日
足もとで栗鼠と四十雀が遊んでいる。日光強し。空気清澄。こういう所では、何をして良いのか分らない。
午後、山に登る。スイス、オーストリア、ドイツ、イタリヤの国境である。高山の波頭尽く雪を戴き、碧空に連る。このあたりの絵葉書には、山上はるかに他国の山々を眺め、泣き伏しているチロルの娘の絵が多い。下は花を満した牧場ばかり。そぞろに今さら夢二を追慕する。
山上には鈴をつけた牛がいる。蜜蜂の羽音、雪の流れる水音、動く度に鳴る牛の鈴。――私の靴の下の雪は濁っているから、ここはそんなに高くはないのだろう。茶店の娘が私の横にくの字になり、細い字で手紙を書いている。スイスの空の方へ雲がゆるゆる流れて行く。山上、日に焦げたこの小娘と私とただ二人だ。鈴の音がいつまでもつづく。「あの牧場にサフランが咲くまで。」
岸田国士氏の戯曲、チロルの秋には、こんな言葉もあったと思う。
夜、雨になる。篠突く雨だ。
六月廿一日
ウインへ出発。沿線、石灰岩の山多し。道路はために真白だ。風吹けば、窓へ吹き込むほこりが皆チョークの匂いがする。
夜十時半ウイン着。ここは長く私の憧れていた都である。