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ぶどうむもん
武道無門
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《武道無門(ぶどうむもん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 12,130 字 · 24 頁
そう囁いて忠善が計り繩を取出した。とたんに伊右衛門があっと云って石に躓いた。むろんそう見せたのである、「ああ痛い、爪を剥がした」と云って其処へ蹲む、忠善は慌てて、「なに、爪を剥がしたと」
そう叫んで覗き込みながら、片手でさっと計り繩を濠へ投げ込んだ。……商品の見本とみせて渋塗りの麻糸を四本綯いにし、その先端に分銅を付けたものである。伊右衛門はいかにも生爪を剥がしたという様子で、痛そうに声をあげながら、布を引裂いて足指を縛っていた。
「ひどく痛むか、なんと思い切って突っ掛けたものだな、いやその爪を剥がさずに置くがよかろう、こうやって押えて置いて」
「あっ、痛い、それでは痛い、是れをこう巻きつけて」
互いに声高く云い合いながら、忠善は分銅の重みを計りつつ糸を繰り伸ばしていた。
馬上の若侍が一騎、下僕と共に通りかかった。此方を見てちょっと馬を停めた。蹲んでいる肱の下からそれと見た伊右衛門は、自分の膝頭ががくがくと震えだすのを感じた、然し若侍は直ぐに立去った。
「……宮部、どこを見ておる」
伊右衛門は低く叱りつけながら振返った、そのとき小弥太はまるで見当の違った方角をじっと覓めていた。