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しのぜんご
死の前後
豊島 与志雄
線上閱讀豊島 与志雄《死の前後(しのぜんご)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 17,273 字 · 35 頁
いつまでも男がじっとしているので、彼女はじれったくなって声をかけた。
「坪井さん……。」
振向いた坪井の顔には、淋しい苦笑が浮んでいた。
「いつまで、何をしていらしたの。あたしが分ってたくせに……。」
「うむ……考えていたんだ。」
二人は一寸顔を見合ったが、蔦子はいきなり彼を引張って歩きだした。
「いいわ、あたしに任しといて頂戴。」
狭い通りにはいっていって、蔦子の知ってる初めての家に上りこんだ。そういう時のいつもの癖で、坪井は何だか落付がなく不機嫌だった。何かと嫌味を云ったり、わざと冷淡な調子を見せた。蔦子もそれを平然と受流して笑いながら、でたらめな調子になった。酒の飲み方が早くなり、流行唄をくちずさんだりして、そして坪井は何度も立ちかけた。まだ早いわと蔦子は云った。それがしまいには、帰るのがいやと云いだした。その時にはもう、二人とも酔っていた。酔ってからの時間は、知らないまにたってしまう。坪井は腹をたててるようだった。蔦子はひどく冷淡になっているようだった。
「今晩は送っていかないよ。」
「ええ、どうぞ。」
蔦子は足がよろけていた。表通りで坪井に別れると、彼女は電柱によりそったり、時々立止っては熱い息を吐き、そしてまたふらふらと歩き出した。